アートバーゼルといえば、資本主義的、商業主義的な意味では間違いなく世界最高峰のアートフェア。マイアミや香港でも、 “ART BASEL”の名を冠したラグジュアリーなフェアを開催し、 “アート界のオリンピック”と自称するほどの圧倒的な存在感を示しています。
今年で44回を数える本家バーゼルの開催は毎年6月。世界中からトップクラスのギャラリーやアーティスト、キュレーターにコレクター、メディアが集まり、それに合わせて地元美術館やギャラリーが力の入った展示をおこないます。
サテライト(衛星)フェアと呼ばれる大小様々なフェアも市内各所で開催され、ライン川沿いの古都はちょっとしたお祭りのよう。バーゼルの人口およそ16万人に対し、期間中に街を訪れる人の数はなんと6万人以上と言われています。
そして、今回筆者がバーゼルにやってきたのはサテライトフェアの中でも主要なものの一つ “VOLTA9” に出展するため。
その名のとおり9回目を数えるVOLTAですが、規模はそれほど大きくないものの、カッティングエッジな作家を紹介するギャラリーが多いユニークなフェアとして認知されています。
会場が市街中心部から少し離れたDreispitzと呼ばれる旧貨物列車デポを再開発したエリアなのですが、いかんせん来場者数がかなり少ない。
アートバーゼル本体はベネチアビエンナーレ開催年であることもありかなり盛り上がっているとの情報で、出展ギャラリーたちは事務局に文句タラタラでしたが、それはフェアではよくあること。それでもさすがBasel Art Weekだけあってわざわざやって来る数少ないビジターの質は良く、アートに対する見識が高いのは質問や反応でよくわかるのです。
そして今回のテヅカヤマギャラリーの出展作家は、いま北関東で最もカッティングエッジな男タムラサトル氏。
昨年のART OSAKAではその破壊力のある展示で爆笑を誘い、アートの構成要素としてのユーモアの重要性を再認識させてくれた作家ですが、アートビジネスの聖地でもお客様の反応はすこぶる良く、作品意図の理解が速いのはもちろん、笑ってほしいところで笑ってくれる、素敵な出会いがたくさんありました。
初日にプーマのロゴがただただ回転する “PUMA Machine”をとある富豪がご購入され、最終日には日本ではまず売れないであろう”接点”の大きな作品までお嫁入り。傑作 “100kg Man”はヨーロッパのアートファンにも大人気で、 “小太りの男が全裸になる”という普遍的な笑いのフォーマットをすぐれたアートワークにまで昇華させたタムラ氏にはあらためて脱帽です。

(左) プーママシーン。Facebookを通じてPUMA本社にコンタクトを試みるも全くの無視。
(右) 50の白熱灯のための接点#5。飛び散る火花、明滅する電球を見て皆思わずニヤリ。「oh, very clever!」
ところで、アートフェア以外にも見るべき美術館が沢山あるバーゼル。
1671年に開設された世界最古の公共美術館のひとつ、バーゼル市立美術館、当地出身の美術商でアートバーゼルの創始者の一人でもあるエルンスト・バイエラー氏が設立したバイエラー財団、また、スイス出身、バーゼルで学んだ彫刻家ジャン・ティンゲリーの名を冠したティンゲリー美術館、前出のヘルツォーク&ド・ムーロンによって2003年に竣工したシャウラガーなどなど、アート好きには時間がいくらあっても足りません。

(左) ジャコメッティ”歩く男”(バイエラー財団)。こんなファンキーなやつ知らん。
(右) ティンゲリー美術館で日曜に行われたブレックファーストレセプション。緑の芝生、ティンゲリーの噴水を囲んで昼間っから生ハムとフルーツでワインを鱈腹。そして至福。
6/16、アートウイーク最終日、フェアは最後の来場者を送り出し、遅い日没を待たずにお祭りは終了。ギャラリーもアーティストもコレクターも、一年後の算段を胸に秘め、皆それぞれの場所に帰ってゆくのです。
text:宮下和秀/TEZUKAYAMA GALLERYアシスタントディレクター