『京都市立芸術大学 アートで目覚めるvol.2』 長谷川由貴×井上佳昭(ヨシアキイノウエギャラリー)

 

長谷川由貴《密やかな幻視》2014|油彩、キャンバス|194×324cm ©Yuki Hasegawa

長谷川由貴《密やかな幻視》2014|油彩、キャンバス|194×324cm ©Yuki Hasegawa

《密やかな幻視》

井上:京都市立芸術大学(以下、京芸)の作品展で、長谷川さんの《密やかな幻視》をはじめ数々の作品を拝見した時、こんなに森の深い所は日本ではそんなに無いので、オリジナルでイメージした像をつなぎ合わせた想像上の森を描いているのかなと思いました。作品からはすごく強い磁場のある、且つやわらかいオーラを感じて惹き付けられました。

長谷川:ありがとうございます。

井上:ご自身で行かれた沖縄の久高島を描いていた事は後から資料で知り、自分でも調べてみたら、すごい所なんですね!僕も沖縄は好きで何回か行っていたけど、久高島のような聖地がある事を初めて知りびっくりしました。琉球王国の中の一番大事な所だったみたいですね。

長谷川:そうですね。あの島を作ってから沖縄本島が出来たと、神話の成り立ちからそうなっているので、すごく重要な場所であるようです。

井上:男子禁制の場所もあるとか。

長谷川:この久高島自体、母系一族が権力を持ち、男性よりも女性の方が共同体の中で出来ることが多かったそうです。

井上:男は外で働いて?

長谷川:はい、島に残された女性同士でさらに共同体を作り、彼女達が祈りを捧げたりする場所が重要な聖地になっています。ここは何か違うなと感じる場所がたくさんあって、写真もいっぱい撮って帰ってきました。それから詳しく調べていったら、昭和の頃には岡本太郎さんもこの島には行っていたと…。

井上:そうそう、雑誌などに発表されて、実はそのために風葬が無くなったそうですね。

長谷川:これはもの珍しいんだと島の人達が気付いてしまったせいで、いくつか取りやめになった風習もあるみたいです。そのせいか、あまり観光には積極的じゃないのかなと、ちょっと思いました。

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アーティストとしての原点/体験を見せたいという事

井上:長谷川さんはどうしてアーティストを目指そうと思ったの?

長谷川:私はずっと絵を描く事が好きだったので、漠然と芸大に入りたいと小さい時から思っていました。両親がそういう学校があると教えてくれて。芸大に入り美術教育を受けていると、他の事に全く興味が向かなくなっていって、アルバイトやいろいろと体験もしてみるんですけど、やっぱり長時間は出来なくて。制作している時だけは、ご飯を我慢してでもいくらでもやろうと思えるんですが。

井上:絵はものすごく上手かったの?

長谷川:どうなんでしょう…。

井上:僕も絵は好きで、小さい時には皆と一緒でマンガとか描いていたりしていたけど、どうしても勝てないなと思う上手な子達がやっぱりいたからね。他のアーティストに聞いても「自分はずばぬけて上手かったです」って言うよ。

長谷川:私はあまり活発なタイプではなかったので、一人でずっと絵を描いてるのが楽しいというのもありました。実家は大阪なのですが、わりと田園地帯の場所で、小・中学校に行く時も田んぼ道をずーっと歩いて行っていました。電灯があると稲の発育が悪くなるので、夜もライトは点々としかなくて…。学校から帰って来る時など、太陽が沈んで空の色がずうっと変わっていって、星がだんだんと見えてくる様子を、何だか不思議な感じがするなぁと思いながら見ていたんです。その後そんな事はすっかり忘れていたのですが、聖地のような場所に行くようになって、あの時に感じていた不思議な感覚を思い出すようになりました。たぶんその幼い時が、自分の中にある回路のようなものが目覚めた原点だったのではないかと。

大学院を含めて京芸に通っていた6年間は、ずっと自然の持っている超越的な力というものに興味があって、それを追い求めてマニアックな神社に日本中あちこち行って、神秘的とはどういう事なんだろうと体感しながら作品制作をしてきました。自然の力というものと、その体験を見せる事が自分の中のコンセプトであるというか、やっぱり体験を見せたいという事がずっと一貫してある感じですね。

井上:それはアートとして、非常に重要な部分じゃないかなと思いますよ。

長谷川:日本の古代の自然信仰や神道などからテーマを持ってきて描いていた時期もありましたし、遠野物語を読んで民俗学的な伝承から作品を描いてみるとか、もっとキャラクター的なものが出てくる作品も描いたりしていたんですが、突き詰めていくとどの時代も結局は、自然を人格化していたり、こういう現象はこういう神様という風にして名前を付けていたりするだけだなと思ったので。それらの根本として、日本各地に残っている聖地のように言われている場所に実際に行ってみて、其処がどうであったかを描くというのが、今の一番のテーマですね。

 

『ART OSAKA 2014』に向けて

井上:今回、作品を選ばれてどのように感じましたか?

長谷川:今まではギャラリーや美術館とか、美術の場所のために飾る前提で制作をしてきたので、今回はホテルという環境をいただきもっと生活に近い場所に作品があっても良いものだったんだと、考えるきっかけになりました。

井上:ホテル自体、旅行に行った人がそこで生活する場所とも言えるからね。長谷川さんの絵があって全然おかしくないし、特別な場所を描いているアートの素敵なオーラをもらえるならば、そのホテルに泊まる価値も上がるよね。ちょうど今、このギャラリーで展示している井上廣子さんは、森を通して命の循環や自然と人間との共存の歴史を表現し未来へのメッセージとして残そうと、彼女の考える「森」をインスタレーション作品として表現しています。長谷川さんの作品も、久高島の森を作品に描いて見せてくれる事で、僕らが知らなかった場所に新しく気付かせてもらうという、アートにとってすごく大事な所が共通しているんじゃないかなと思います。

長谷川:全国的にも、時代によって社殿を建て替えてしまった神社とか、歴史が積み重なっていくうちに忘れられてしまっていく場所がたくさんあって、不必要な情報を取り払いながらどこまでプリミティブなものに近づけるかという事をずっと大切にしようと思います。

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自分が「パワーがある!」と思ったものを

井上:最後に、これからの展開とどんなアーティストになっていきたいか、教えてください。

長谷川:そうですね。作品から何かが伝わるという事が一番重要だと思っているのですが…。でも、モチーフにしている場所に人を連れて行って直接体感してもらう方がいいんじゃないか、という部分を超えられる作品が自分にはまだ出来ていないので。私自身の体験を通じて描かれた絵と両方を比較した時、どちらも良いなと思えるような状態になっている作品を一番に目指して、それがとにかく出来るようになりたいと思っています。なので、自分が「パワーがある!」と思ったものをどれだけ画面に落とし込めるかをずっと研究して、描き続けていきたいです。

井上:アートというのはコミュニケーションの手段でもあるので、僕らの知らなかった場所を絵画として見せてもらって、その中に長谷川さんを通じて込められた何かを感じて、自分もまたそこに行きたいと思うのは素敵ですよね。

長谷川:私の作品を見ていただいて、さらにはその場所に行ってもらった時に、私が「あっ」と思ったあの回路みたいなものが、見た方の中にも通ればいいなと。皆の体の中でどこかに眠っているはずの神経みたいなものを呼び起こせたらと思います。いずれは外国のいろいろな土地も見て、日本との違いをどう感じるのか、その土地ごとの神聖な場所、いろいろな宗教における重要な場所も巡ってみたいという思いもあります。

井上:ぜひとも、これからもがんばって描いて、いろんなものを見せてください。『ART OSAKA』での展示も本当に楽しみにしています。今日はありがとうございました。

長谷川:ありがとうございました。

インタビュー収録:2014年5月2日、ヨシアキイノウエギャラリーにて 編集・文:大場美和/撮影:室谷智子

インタビュー収録:2014年5月2日、ヨシアキイノウエギャラリーにて
編集・文:大場美和/撮影:室谷智子

 

長谷川由貴略歴

1989年大阪府生まれ。2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。2014年「punto」オープンスタジオ(京都)、2013年個展「あなたが私のすぐそばにいることを本当はとてもよく知っていた」京都市立芸術大学小ギャラリー(京都)、グループ展「△のリンゴ-この世界を変える4つ目のリンゴについての仮説-」StudioJ(大阪)他。
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