『京都市立芸術大学 アートで目覚めるvol.2』 前谷康太郎×細川佳洋子(ギャラリーほそかわ/ART OSAKA実行委員)

ART OSAKA 2014 企画展 出展作家インタビュー 『京都市立芸術大学 アートで目覚めるvol.2 前谷康太郎×細川佳洋子(ギャラリーほそかわ/ART OSAKA実行委員)

前谷康太郎《further/nearer》2013|ビデオインタレーション|2分(ループ)、サイズ可変(スクリーンサイズ180×240 cm) |梅香堂(大阪)にて ©Kotaro Maetani

前谷康太郎《further/nearer》2013|ビデオインタレーション|2分(ループ)、サイズ可変(スクリーンサイズ180×240 cm) |梅香堂(大阪)にて ©Kotaro Maetani

《further/nearer》‐作品のバイオリズム

細川:私が最初に前谷さんの作品を拝見した時は、まだ京都市立芸術大学(以下、京芸)には入学されていなかった頃だったんですよね。既にテクニカルな事も勉強して完成度の高い仕事をされていて、抽象的な映像作品でしたし、強く印象に残りました。その後に、なぜ改めて京芸に入ろうと思われたのでしょう?外語大に在籍されていた時からビジュアルアートには興味があったのですか?

前谷:それは大学に入る以前からですね。ただ、進学校の高校だったので画塾に行く時間は無かったですし、父親にも「美大」とポロっと言ったら「ややこしいから、とりあえず外語大に入りなさい。美大に入ってもいいけど、その後にしなさい。」と言われて(笑)。

細川:では、お家の環境はとしては、美術や美大に対しても寛容だったんですね。

前谷:はい、そうだと思います。

細川:映像の構造的な理論について私は詳しく分かっていないところもあるのですが、ずっとこれまで見て来た中で、前谷さんの作品は映像そのものというよりも、一種の宗教的なものに包まれるような圧倒感があります。例えばロスコーのような…そういう絵画的なイメージにも当てはめてみたいなと思うのですが。

前谷:たしかに動画である一方、没入すると静止画を見ているような気分になるところがあります。変化がとてもゆっくりで、残像が目に焼き付くせいだと思いますが、その目に焼き付いた静止画としての残像と、スクリーン上で進行している動画が重なる感覚というのは、他の映像作品でも絵画作品でもないものだと、他の方からもつい最近そういう感想をいただいて、そんな側面もあるんだなと気付かされました。

細川:一つの鼓動というか、祈りと近いような静かに思考しているリズムとすごくリンクするような作品というか…。前谷作品のその動きは、仏教的な感じでもありますよね。私には、やはり生命のビビットなリズムじゃなくて、その狭間の沈思黙考の時の鼓動や脈と、前谷さんの映像作品とが同期するように感じられます。もっと極端に言えば、生と死の中間くらいのところの脈。

前谷:ありがとうございます、すごく嬉しいです。僕は小さい頃高野山で育った事や、仏教学者である父親の存在もあって、家では読経をして内省する時間を毎日持つようにしています。こういった習慣と作品のもつ波長との間には、潜在的なつながりがあると思っていて、それを見て取っていただけたというのは、とても感動的です。 関東のあるキュレーターの方が個展を見に来てくださった時、お忙しい時期ですごく疲れ果てていらっしゃったのですが、その状態の彼女自身のバイオリズムと作品《further/nearer》が鏡像のようにリンクし、浄化(カタルシス)を感じたそうです。細川さんのおっしゃった「生と死の中間くらいのところの脈」というのは、まさにこの方の例にあてはまる気がします。

細川:ある種すごく生命的なんですよね。

前谷:東洋思想にはもともと興味があって、外語大受験の際も最初はヒンディー語専攻を考えたのですが、父親が読めないアラビア文字が読みたいという、ちょっとした反発心から(笑)ウルドゥー語を選択しました。

細川:なるほど。そういうアジアの言語を選んでそれが今の前谷さんのお仕事に何か繋がっているというのはありますか?

前谷:あると思います。今回の『ART OSAKA』でも出展させていただく《further/nearer》は、焦点外の領域に目を向けた作品でして、世界の認識の仕方としてはかなり東洋思想的だと言えます。般若心経の中にも「それが何であるか、認識できるものばかりが全てではない」と説いている一説があります。実体が見える世界を、焦点があっている領域だとすれば、この作品はその世界と垂直に交差する光の可動域(実体の見えない、焦点外の世界)を表しています。そして多くの場合、前者よりも後者の方が広い領域を持っています。また、これは焦点の話よりも大きな話になってきますが、私たちの目も常に、見えていない世界の方が広いはずです。そういった領域の光を感じてもらうというのが、この作品の大きなテーマです。 maetani_hosokawa2

光を集める-映像の素材として

細川:以前に、後々田さん[※]が「これからあいつは光を集めに行くんだよ」と、前谷さんの事を仰っていたのですが、撮影のためには街の中へと光源を拾いに行かれるのですか?

前谷:そうですね、車で走って。そのお話しはちょうど昨年に光のロードムービーを撮っていた頃の事ですね。車の後ろに、敢えて不完全な像を結ぶようなオブスキュラを積んで走って撮影をしていました。 一番最初は、このオブスキュラと同じ構造の部屋を用意して、そこで夕日の光を採集していました。この、太陽光をサンプリングしたビデオインスタレーションからスタートして、その延長線上でいろいろな人工の光も使ってみたりしています。 外語大で言語学を勉強していた過程で、言語の持つ分節性は、多くのカット構成から成る映像においても見て取れるなと気付いて…音声言語における、音素に当たるものとして太陽光などのよりプリミティブな光を拾ってきて、それを構成要素に使おうと思ったんです(a light in memory(2011))。人工的な光を使う場合でも太陽光を想起させるような色彩を意識しています(further/nearer 2012, 2014(2012,2014))。

細川:暖色系の赤、オレンジ、黄色以外にも、ブルーの光の色の作品もありましたよね?

前谷:それは青空から採ってきた光ですね。

細川:なるほど。ちなみに、話が前後するのですが、後々田さんとの関わりは前谷さんが2010年に初めて此花メヂア(大阪)で個展をされた頃からだったのですか?

前谷:そうですね。その時は会って2回目くらいだったのですが、すごくダメ出しをされて、しばらく凹んで、個展終了後はしばらく梅香堂に行けなかったのですが、久しぶりに行ったらすごく喜んでくれて、「メヂアでの展示、うちでもう一回やらないか。新作じゃなくていい、ちゃんと見てもらえる形にしよう。」と言っていただいて実現したのが2011年の「(non)existence」展になります。

細川:今年2月の大学での作品展では、前谷さんの作品は一部屋をすべて使ってスクリーンに上映されていて、とても説得力がありましたよね。

前谷:実はそうした展示方法についても、後々田さんに強く勧められていた事でもありました。ただ、「やれ」とだけ言っておらんようになってしまったので、僕としても本当にやらざるを得ない状況になって…(笑)短い設営期間でのつくり込みはいろいろと厳しかったですが、自分の中でも大きなキーとなる展示になりました。

※後々田寿徳:大阪市此花区のアート・スペース「梅香堂」の堂主。2013年12月に永眠。福井県立美術館、ICCの学芸員や大学講師を経て、2009年11月に梅香堂を開設。築60年の倉庫を改修したオルタナティブ・コマーシャル・ギャラリーで、気鋭の若手作家を紹介し注目を集めた。  

前谷康太郎《further/nearer》2014|ビデオインタレーション|京都市立芸術大学・作品展にて ©Kotaro Maetani

前谷康太郎《further/nearer》2014|ビデオインタレーション|京都市立芸術大学・作品展にて ©Kotaro Maetani

これからの制作について

細川:今後は、どういう展開を考えておられますか?

前谷:とりあえずは目先の展示に追われていて何も考えられていないのですが、海外へ出た事が未だ無いので、挑戦したいなと思っています。

細川:もし行くとしたら、どういう国に?

前谷:美術をやる環境としてはドイツやイギリスが良いのかなとも思うんですが、制作そのものの展開を考えると、北欧などの白夜や砂漠の蜃気楼など、日本では到底見ることの出来ない光を使って作品を作れたらなとも思います。

細川:それは良いですね。他にも夕日の強烈な大自然の地だとか、たとえその地で作品発表が出来なくても、自然観や死生観が欧米とは全然違う所へ行かれる方が前谷さんの作品には上手くフィードバックされていくような気がします。

前谷:作品にとってはたぶん、本当に仰る通りです。

細川:前谷さんの強みの一つは、日本人である私たちが祈りに近いような状況にある時に呼応して、ヴァイブレーションを起こさせるという面白さだと思うので、そういう土壌のある日本以外の国で独自の表現をますます高めて無敵になっていって欲しいとも思います。期待していますので!

前谷:ありがとうございます。   DSC_0267as

インタビュー収録:2014年6月2日、ギャラリーほそかわにて
編集・文:大場美和/撮影:室谷智子

前谷康太郎

略歴 1984年和歌山県生まれ。2008年東京外国語大学、2010年IMI/総合映像大学、2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程を修了。個展:2013年 ICC(東京)、梅香堂(大阪/’11)、2012年CAS(大阪) 他 / グループ展:2014年「Future Tense」ヨシアキイノウエギャラリー(大阪)、2013年「Art Court Frontier」アートコートギャラリー(大阪) 他。

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