第2弾「アートで目覚めるvol.3」作家インタビュー:江上里絵子

前回に引き続き、ART OSAKA2015企画展「アートで目覚めるvol.3」に出展される2人目の若手作家。京都市立芸術大学で油画を専攻された江上さんのインタビューです。インタビュアーはART OSAKA実行委員会の八木光恵(アートコートギャラリー)。画面の大きさのこだわりや画材の研究など、制作の背景を伺うことができました。

インナートリップ / 2015

インナートリップ / 2015

<修了してから

八木(以下、Y):3月に京都市立芸術大学(※以下、京芸)卒業してから、今は、仕事をしているんですか。

江上(以下、E):春から高校の美術コースで美術を教えています。

Y:どうですか、京都市立芸術大学(以下、京芸)院を修了してから。

E:朝から晩まで京芸にいるのが日常だったので、無駄にしていた時間も多かった気がします。修了してからは仕事もしてもいるので、時間を見つけて制作していかないと、という気持ちが大きくなりました。

Y:大学を出ると、環境がすごく変わりますよね。

< 京芸作品展では>

Y:京芸作品展での学内の大きな大きな画面を私は見ました。

E:縦約300cm×横約435cmの画面は以前にも描いたことがあって、学内の作品展のは4回目の挑戦になります。4回生の卒業制作で同じサイズを描きましたが、その時は「これでは全然だめだ」としばらく立ち直れないほどの失敗をして。それからずっと「2年後院を修了する時に同じ大きさで納得のいく作品を描きたい」と、思っていました。

Y:今回は納得できましたか?

E:納得ではないですけど、「大ショック」ではなかったです。大きい絵は、ありかなしか一発で分かる感じがあります。私の絵ははっきり具象物を描いていないので、長いこと絵を見ていただいて、隠れた要素を発見してもらえればと思っています。でも、2年前の作品ではそこにさえ至っていないことが分かりました。今回はうまく言った部分とそうでない部分と冷静に見ることができたので、それが1つの判断基準でした。

Y:学内の展示スペースより大きい空間に持ってきたらまた違う見え方するかもしれませんよね。

E:そうですね。作品展では、引いて作品を観てもらいたかったので、隣のスペースと通路で繋がっていてぎゅっと引くことができる部屋を選びました。学内の展示スペースでは一番ベストな部屋を選べたとは思います。

Y:私、廊下まで引いて見ました。

E:ありがとうございます。壁画に近いようなものをやりたくて、大きい作品を成功させたいという気持ちがあります。矩形がすぐ分かるサイズ感より、外に外に広がるような感覚を自分の体と画面が共有できる大きさがいいです。

Y:実際に少しはフレスコを描いているんですか?

E:描いたことはないですが、京芸に壁画の部屋があるので身近ではありました。「壁画に近いもの」というのは、絵を見たとき360度周りを囲まれるような感覚を感じてもらえたらと思っています。

Y:画面から壁にまではみ出して、描くことはしてないんですか?

E:今のところはしてないですけど、それがやれる環境ならやりたいです。 作品展の大きいサイズの方は反省点が多かったんですが、もう一つの縦212cm×横145cmの作品の方が私の中ではしっくりきていて。あれは、最後にもう1作描こうと思って、3日ぐらいでできたんです。

Y:あれ素敵でした。

E:ありがとうございます。長いことぐちゃぐちゃと大きい作品をやっていたんですが、サイズを下げたことで初めて気づくことがあるってことを知ることができました。矩形で切られるのがすごく嫌だったんですが、それを解消できる色の置き方とかモチーフの見切れ方とかうまくいった部分があって。本当に些細なことだったんですが、小さいサイズでも描けるという展望が開けた気がしました。

Y:大きいのをやればこそ。ご褒美があったんですね。

E:本当にそう思います。

< 空気の層を描き起こす>

Y:モチーフはどこから来ているんですか。

E:最近は実際公園に行って、遊具で遊んでいる子どもを写真に撮り、それをモチーフに描いていました。モチーフを選択して絵を描いていますが、モチーフは自分の目を通していたらなんでもいいなと思っています。モチーフそのものよりそれを取り巻く空間をモノとして描きたいと思っていて、それをどう視覚化するのかを実験的に繰り返しています。抽象的な画面になっていくので何回も繰り返して描かないと、いくら自分の目を通していても画面に落としきれない感じがあるので、私にとっては繰り返して描くことが、モチーフよりも大事なことです。 私の絵は”空気の層”を描くための実験過程です。”空気の層”というのは私の触覚的な視覚体験から生まれた言葉です。私は、空気が自分を中心として、タマネギのように、同心球体状に重なっているイメーシで空間を捉えています。ものを見た時に空気の層が表面に沿うように歪められているように感じます。この感覚は私の皮膚から出発して、周囲全体を触っているような気持ちにさせるんです。これは私の触覚に近いもので、それを絵に起こしたいと思っています。

江上里絵子

江上里絵子

Y:人間の体に直接描いてそれをモチーフにすることもしていたんですか。

E:以前はペンで自分や友人の身体中に模様を描いて写真に撮り、それをもとに人型の模様を画面にトレースしていました。その肌に直接描く作業で空間に対する感覚に気づくことができました。皮膚は空気に触れ合う面であり、空間を介してモチーフを捉えているという。でも、出来てくる絵はモチーフである人体を模様で囲い込み、空間から切り離すようなイメージが強かったので、「違うな」という感覚がありました。なので、一度それから離れることにしました。

Y:今回は人体に描いたものではないんですね。

E:公園で遊んでいる子どもや人、遊具と周りの風景ですね。

Y:人体に描いておられたときと今回のようなものとでは、画面上の違いはありますか?

E:モチーフのアウトプットのし仕方はかなり変わりました。でも、興味の対象は同じで、今も”空気の層”がテーマです。ずっと目に見えないものを気にしていたというのはあります。

Y:空気の層は、見えてるんですね。

E:見えているというより、触るような感覚で見ています。

Y:けっこう視覚化できているんですね。

E:そうですね。でも、絵が描けなくなった時期もあります。見えないものをどうやって絵にしたらいいんだろうと。もっと自分の感覚と実際目に見えているものとを繋ぎ合わせて描こうと考えるようになって、少し楽になりました。

Y:描けているというわけですね。

E:描きたいと思って、描けています。

Y:そしたら、これかからも同じラインをもうしばらく追求していくんですか。

E:しばらくは続けていきます。

ART OSAKA実行委員会:八木光恵(アートコート)

ART OSAKA実行委員会:八木光恵(アートコート)

Y:今回のシリーズから送ってもらったポートフォリオの仕上がりでも、日本人的な感性で通じるところもあると思うんですけれども。色が染みていくようなところも、心地良いパターンが画面の中に出てくるような。

E:そうですね。でもパターンが見えすぎるのは良いとは思ってなくて。以前、大きい作品を「絨毯みたいだね。」と言われたことがあります。でも、絵の具を使えるという強みがあるので、パターンの要素を画面に落とし込むにしても、マチエールを工夫することで良くしていけると考えています。油彩画を周りで制作する人が多い中で、私の絵では、滲ませるとか、モノトーンに近い色の色調の変化が重要な要素であることは、技法として特徴的だと思います。複雑な深みのある色を好んで使っていましたが、それらの色作りが、絵を描くステップとどう関わっているのか知りたくなって、自分が無意識に多用する色をサンプルとして残していき、徐々に見つけていく作業をし始めるようになりました。

Y:染色的な滲み。あれは具体的にジェッソなど、面を整える時に滲むような下地を作ってはるんですか?

E:私は下地を作らず、画面に直接描いています。油彩で描く場合だと下地に下塗りなどの処理を施してから描く人が多いのですが、私は何も処理していない市販の綿布を使っています。下地の処理がされていると滲まないので、絵の具と水、スプレーや色んなタイプの刷毛を使って滲みを作ります。スプレーでどのくらい布を湿らせるか、どう絵の具を流すかとか、こうやったらこうなると言うのは予想がつくようになってきたました。画材の研究はこれからももっとやらなきゃと思います。安価な絵の具の方が顔料が荒く、混色して滲ますと後からいろんな色がでてきて面白い効果が出てきたり。描いて初めて分かることが多いですね。

Y:滲ませる描き方の人、それこそいろんな人がやってはりますもんね。そしたら、まだまだやりたいことはいっぱいあるわけやね。

E:はい。いろいろ手をつけて、ちょっとずつ見えてきたくらいの段階なので。今が一番、楽しいかもしれません。学生最後が一番、楽しくなりました。

Y:学生の間は制作することが仕事って言う環境でいられるけれど、これからは自分で自分をきちんと律していかないと維持できないからね。やりたいことが学生時代に見つけられたのなら、値打ちですよね。今の気持ちを忘れずに。

<ART OSAKA では>

Y:ART OSAKAでは、何を出そうと?

E:新作を作っていこうと思っていますが、ホテルの部屋っていうことで、どのくらいのサイズが許される範囲なのか、ちょっと分かっていないのですが。

Y:大きさ的には、遠慮されることはないですよ。

E:2月の中ぐらいのサイズのは、高さが212cm、横が145cmですね。中で、組み立てることができるなら、大きいのでも大丈夫です。

Y:そしたら、インパクトはばっちりですね。後は、ちょっと気の利いたやつをぜひ。大きいのはすごくインパクトを与えることはできるけど。せっかくアートフェアに出すんだから、売れるっていう経験も是非して欲しい。売ったことないですか?

E:ありません。

Y:売るって、大事なことです。特に若いときに作品もっていただくってすごく大事なことで、作品を持ってもらうと、その人はずっとあなたのことを見続けてくれる大事な人になってくださると思うんですね。これから出てくるものも期待して待っていますよ。私たちが見つけた作家としていてほしいので。今後ともよろしくお願いします。

E:よろしくお願いします。

DSC_0600 江上里絵子 略歴 2015 京都市立芸術大学 大学院 美術研究科 修士課程 絵画専攻 油画 修了 2013 京都市立芸術大学 美術学部 油画専攻 卒業 1989 奈良県生まれ ・グループ展歴 2014 京展 2014(京都市美術館/京都)〈入選〉

編集 / 室谷智子(ART OSAKA事務局)

広告